卑怯者

世界的に有名な労働歌の一つ「赤旗の歌」の訳詞(赤松克磨)の一小節に「~~卑怯者去らば去れわれらは赤旗守る」というのがある。1960年に安保反対闘争で日本中が揺れ動いたときに、東京に出てきて右も左もわからない田舎者の私が覚えた歌である。今にも日本が戦争に巻き込まれるかのような錯覚に陥ったものである。改めて訳詞を読んでみてその現実離れしたすごさに驚く。

英語には、日本の「卑怯」と同じように使える単語や表現はないのだそうだ。一言で「卑怯」と言っても、かなりいろいろなニュアンスがある。臆病でできない「卑怯」、裏切りをする「卑怯」、公正性に欠ける行為の「卑怯」などさまざま。まさに世界語になろうとしている若い女性が好んで使う「かわいい」という表現と同じだ。

人間には本来卑怯というDNA(?)が組み込まれているのだろう。しかしほとんどすべての人が「他の人はともかく、自分は卑怯な人間ではない」と思い込んでいるのだ。確信犯であろうがなかろうが、程度の差こそあれ、他人を裏切ったりしたことがない人などいない。これを否定できるのはイエスか釈迦に値する人であろう。ところが卑怯という概念さえ持ち合わせていない人種がいるのだと思う昨今である。

庵野大